スーパーの「精肉コーナー」、お店の看板に書かれた「精肉店」。毎日のように目にする言葉なのに、いざ「精肉ってどういう意味?」と聞かれると答えに詰まる人は多いはずです。生肉とは違うのか、食肉とは何が違うのか、なんとなく「お肉全般のこと」で済ませていないでしょうか。
結論から言うと、精肉とはそのまま調理できる形にカット・整形された食肉のことです。牛や豚は、生体 → 枝肉 → 部分肉 → 精肉という4つの段階を経て売り場に並びます。精肉はその最終段階の呼び名で、業界では「もう包丁を入れなくても鍋やフライパンに入れられる状態の肉」を指します。つまり精肉は肉の種類ではなく、肉の状態を表す言葉なのです。
この記事では、公益財団法人日本食肉流通センターや日本食肉格付協会の公的資料をもとに、精肉という言葉の正確な意味、枝肉から精肉になるまでに肉が約3割軽くなる理由、店頭のラベルに書かれている情報の読み方、そして精肉の消費期限が短く設定される仕組みまで、まとめて整理します。読み終わる頃には、いつもの精肉コーナーが少し違って見えるはずです。
・精肉は肉の種類ではなく「調理できる形に整えた状態」を指す言葉
・生体→枝肉→部分肉→精肉と、肉は4回姿を変えて売り場に届く
・枝肉から部分肉になる時点で、牛肉は約72%まで目減りする
・パックのラベルは食品表示基準と公正競争規約の二階建てでできている
精肉とは「そのまま調理できる形に整えた肉」のこと

正体は流通の最後の1工程を終えた肉
精肉の定義はシンプルで、部分肉を料理しやすいようにカットし、直接調理できるように整形した食肉を指します。スーパーや食肉店が箱で仕入れた大きな肉の塊を、ステーキ用の厚切り、しゃぶしゃぶ用の薄切り、カレー用の角切りへと切り分けた段階が精肉です。
なぜこの言葉が必要なのかというと、食肉は流通の途中で何度も形が変わり、そのたびに取引の単位も価格も変わるからです。生きた牛の状態、内臓と皮を外した枝肉の状態、骨を抜いた部分肉の状態、そして店頭に並ぶ精肉の状態。同じ「牛肉」でも、業者同士が「どの段階の肉の話をしているか」を一言で区別する必要があるため、段階ごとに固有の呼び名が付いています。
売り場で見分けるのは簡単です。トレーに乗ってラップされ、グラム数と価格のシールが貼られていれば、それは精肉です。逆に、対面ケースの奥に置かれた真空パックの大きな塊は部分肉で、店員さんがそこから必要な分だけ切り出してくれます。同じ牛のもも肉でも、切られる前は部分肉、切られた後は精肉と呼び名が変わるわけです。
覚えておきたいのは、精肉には「上等な肉」というニュアンスが含まれる場合があることです。辞書的には精選した食用肉という説明もされますが、流通実務では等級や価格帯とは無関係に、整形済みの肉であれば精肉と呼びます。安い切り落としも高級なサーロインも、どちらも精肉です。
食肉・生肉・正肉との違いを1枚で整理
似た言葉が並ぶとややこしいので、意味の広さで並べると理解しやすくなります。もっとも広いのが食肉で、食用にする肉全般を指します。精肉は食肉の一部であり、食肉という大きな箱の中に精肉が入っているイメージです。
生肉は加熱していない状態の肉という意味で、加工や整形の度合いではなく「火が通っているかどうか」を表します。だから店頭の精肉はほぼすべて生肉でもあります。正肉(しょうにく)は骨や余分な脂肪を取り除いた肉で、鶏肉の世界でモモ肉とムネ肉を合わせて「正肉」と呼ぶ使い方が代表的です。
| 用語 | 意味の範囲 | 何を基準にした言葉か | 使われる場面 |
|---|---|---|---|
| 食肉 | もっとも広い | 食用かどうか | 法令・統計・業界全体 |
| 精肉 | 食肉の一部 | 調理できる形か | 売り場・小売の現場 |
| 生肉 | 加熱前の肉全般 | 火が通っているか | 衛生・調理の話題 |
| 正肉 | 骨・余分な脂を除いた肉 | 可食部かどうか | 鶏肉・ホルモンとの対比 |
混乱しやすいのが、内臓肉との関係です。レバーやミノなどの内臓は業界では「副生物」と呼ばれ、精肉とは別枠で扱われます。売り場でもホルモンが精肉と別のケースに並んでいることが多いのは、仕入れルートも期限の設定も別だからです。
売り場が「精肉コーナー」と呼ばれる理由
スーパーの売り場名が「肉コーナー」ではなく「精肉コーナー」なのは、そこが単なる陳列場所ではなく加工場を兼ねているからです。多くの店ではバックヤードに専用の作業室があり、仕入れた部分肉をその日に切り出して並べています。
作業は大きく2種類に分かれます。包丁を使う手加工では、ブロック肉をステーキ用・角切り・すき焼き用など用途に合わせて切り分けます。もう一方の機械加工では、スライサーで薄切り肉を作ったり、ミンチ機でひき肉を作ったりします。同じ部分肉が、切り方ひとつで焼肉用にもカレー用にも化けるわけです。
だから同じ部位でも、店によって厚みや形が違います。しゃぶしゃぶ用の薄切りが1cm近くある店と、透けるほど薄い店があるのは、スライサーの設定と担当者の判断が違うためです。厚みは火の通り方を大きく変えるので、パックの見た目だけで選ばず、断面の厚みを確認してから調理法を決めると失敗が減ります。
豆知識として、精肉売り場のラップが夕方に張り替えられているのを見たことがあるかもしれません。あれは値引きシールを貼るついでではなく、ドリップが溜まった商品を作り直しているケースがあります。作り直された商品は加工日が変わるため、期限表示も更新されます。
「精肉店」は法律上どんな店なのか
街のお肉屋さん、いわゆる精肉店は、食品衛生法上は「食肉販売業」にあたります。鳥獣の肉を販売する営業がこれに該当し、食品衛生法第55条に基づく営業許可が必要な業種とされています。許可を得るには、業種ごとに定められた施設基準を満たさなければなりません。
一方で、包装された状態の肉を仕入れてそのまま売るだけの場合は扱いが変わります。食肉販売業のうち包装品のみを取り扱う形態は、許可ではなく届出で足りる業種に整理されました。つまり「切る店」と「売るだけの店」で、行政上のハードルが違うということです。
この違いは買い物にも関係します。店内で肉を切っている店は、部位の相談やカットの厚み指定に応じてくれる可能性が高い一方、包装品だけを扱う売り場では対応できません。厚切りステーキが欲しいときや、しゃぶしゃぶ用を少し厚めに切ってほしいときは、対面ケースがある店を選ぶと希望が通りやすくなります。
注意点として、ハムやソーセージを店内で製造する場合は「食肉製品製造業」という別の許可が必要です。精肉店の店頭に自家製ローストビーフが並んでいたら、その店はさらに別の基準をクリアしていることになります。
牛1頭が売り場に並ぶまで、肉は4回姿を変える
第1段階:生きた牛から枝肉へ
最初の姿は生体、つまり生きたままの牛や豚です。この状態で市場やと畜場へ運ばれ、と畜・解体を経て、皮と内臓を外して背骨に沿って左右に分けた姿が枝肉になります。取引の場ではこの枝肉がセリにかけられ、格付が付けられます。
枝肉が重要なのは、ここで肉質と量の評価が確定するからです。日本食肉格付協会の牛枝肉取引規格では、脂肪交雑・肉の色沢・肉の締まり及びきめ・脂肪の色沢と質の4項目を5段階で判定し、もっとも低い等級を肉質等級として採用します。A5やA4といった表示の「5」の部分は、この判定から来ています。
買い物の場面ではまず見ることのない姿ですが、枝肉の評価が仕入れ値を決め、その仕入れ値が精肉の価格に反映されます。売り場の値札は、実はこの段階でおおよその方向が決まっているわけです。

精肉コーナーで「A5ランク」のシールが貼られた牛肉を見て、値札の桁数に驚いた経験はありませんか。焼肉店のメニューにも堂々と書かれているこの3文字、なんとなく「一…
第2段階:枝肉から部分肉へ
枝肉のままでは扱いにくいため、次の工程で部位ごとに切り分けられます。日本食肉流通センターの資料によれば、部分肉とは牛・豚の枝肉を各部位ごとに分割し、骨を取り除き、血液やリンパ節などを除去し、余分な脂肪を取り除いて整形した状態の肉を指します。
分割・整形された部分肉は真空包装され、ダンボール箱に収められて流通します。一箱あたりの重量は約20キログラム程度が目安で、この箱単位で卸売業者から小売店へと渡っていきます。輸入牛肉も同じく部分肉の形で入ってくるため、国産と輸入が同じ土俵で比較できる形式でもあります。
この段階の肉は真空パックで空気に触れないため、精肉よりも日持ちします。実際、期限表示の考え方も部分肉と精肉では別扱いです。売り場の対面ケースで店員さんが取り出す大きな塊、あれが部分肉だと分かると、店の在庫の流れも見えてきます。
第3段階:部分肉から精肉へ
箱で届いた部分肉が店のバックヤードで開封され、用途別にカットされて、ようやく精肉になります。ここで初めてトレーに乗り、ラップがかけられ、グラム数と価格のラベルが貼られます。同じ部分肉から、ステーキ用・焼肉用・切り落とし・ひき肉と、何種類もの商品が生まれるのがこの工程です。
面白いのは、切り方によって商品の名前も価格も変わる点です。同じ部位でも、厚く切ればステーキ、薄く切ればしゃぶしゃぶ用、端の形が整わない部分を集めれば切り落としになります。売り場で価格差を見て「同じ肉なのになぜ」と思ったら、切り方と歩留まりの差を見ていることになります。
| 段階 | どんな状態か | 取引の形 | 消費者が見る機会 |
|---|---|---|---|
| 生体 | 生きたままの牛・豚 | 頭単位 | ほぼなし |
| 枝肉 | 皮と内臓を外し左右に分割 | セリ(格付が付く) | ほぼなし |
| 部分肉 | 部位ごとに分割し除骨・整形 | 箱入りの相対取引 | 対面ケースの塊 |
| 精肉 | 用途別にカットし包装 | グラム単位の小売 | 毎日の売り場 |
(お肉の教科書調べ/日本食肉流通センター・日本食肉格付協会の公的資料をもとに整理)
輸送効率まで変わる、姿を変える理由
4段階に分かれているのは手間をかけたいからではなく、そのほうが合理的だからです。日本食肉流通センターの資料には、10トン車1台で運べる量の比較が載っています。牛の場合、生体では15頭分、枝肉では28頭分、部分肉では37頭分。豚では生体91頭分に対し、部分肉なら200頭分です。
差が生まれる理由は明快で、骨や余分な脂肪という運んでも売れない部分を先に落としているからです。さらに部分肉は箱型で積み重ねやすく、生体輸送のような家畜の管理リスクも、枝肉輸送のような吊り下げ装置も必要ありません。
この効率は最終的に売り場の値段に効いてきます。産地で部分肉に加工してから運べば、輸送費も保管費も抑えられます。精肉の価格が「肉そのものの価値」だけで決まっていないのは、こうした流通コストが積み上がっているためです。
骨と脂を外すと、肉の重さは約3割減る

枝肉から部分肉への歩留率は牛72%・豚70%
肉は工程を進むたびに軽くなります。日本食肉流通センターの資料では、枝肉から部分肉への歩留率は牛肉が約72%、豚肉が約70%と示されています。枝肉の重さのうち部分肉として残るのは7割強で、あとは骨や取り除かれた脂肪です。
この目減りは避けられません。骨は食べられませんし、余分な脂肪を残したままでは商品になりません。しかも部分肉から精肉になる工程でも、筋や形の整わない部分を落とすため、さらに重さは減っていきます。売り場に並ぶ肉は、枝肉の重さから見ればかなり絞り込まれた残りなのです。
買い物での実感につながる話をすると、骨付き肉が割安に見えるのはこの歩留まりが理由です。スペアリブやTボーンは骨の重さも価格に含まれるため、可食部あたりで計算すると見た目ほど安くありません。逆に整形済みのブロック肉は捨てる部分がほとんどないので、単価が高くても無駄が出にくい選択になります。
歩留等級A・B・Cは「量」の等級だった
この歩留まりを等級にしたのが、A5・B3といった表示のアルファベット部分です。日本食肉格付協会の牛枝肉取引規格では、歩留基準値72以上がA、69以上72未満がB、69未満がCと定められています。Aは部分肉歩留が標準より良いもの、Bは標準、Cは標準より劣るものという位置づけです。
つまりA・B・Cは味の等級ではなく、その枝肉からどれだけ多く部分肉が取れるかを示す指標です。買う側にとっては直接の味の差ではありませんが、生産者や卸にとっては収益に直結します。売り場でA5表示を見たときは、「肉質5」と「取れる量が標準より良い」という2つの情報が並んでいると読み替えると正確です。
ここは誤解が生まれやすいところで、「Aランクだからおいしい」という説明を見かけますが、Aが示すのは量の効率です。おいしさに近いのは数字のほうで、それも脂肪交雑を含む4項目のうち最低の等級が採用される仕組みになっています。
失敗パターン:塊肉を買ったら食べる分が足りなかった
ありがちな失敗が、来客に合わせてブロック肉を買ったのに、下処理で筋と脂を落としたら人数分に足りなくなるケースです。原因は、パックのグラム数を「食べられる量」と同じだと思ってしまうことにあります。
対策はシンプルで、整形が必要そうな塊肉を買うときは、必要量に1〜2割上乗せして選ぶことです。特に外もも系のブロックや骨付き肉は、除く部分が多く出ます。焼く前に筋を切り、余分な脂を落とすと重さは目に見えて減るので、切ってから量を測る習慣をつけると読み違えが減ります。
枝肉から部分肉への歩留率は牛肉で約72%、豚肉で約70%。骨と余分な脂肪を落とす分だけ重さは減り、そこからさらに精肉へ整形されます。A・B・Cの等級はこの「取れる量」の指標であり、味そのものの評価ではありません。
店頭の部位名は「13」という数字から生まれている
牛の部分肉は規格で13部位に決まっている
部分肉は好き勝手に切られているわけではなく、取引をそろえるための規格があります。日本食肉格付協会の牛部分肉取引規格では、ネック、かた、かたロース、かたばら、ヒレ、リブロース、サーロイン、ともばら、うちもも、しんたま、らんいち、そともも、すねの13部位が定められています。
規格があるおかげで、離れた業者同士でも「かたロースを何箱」という取引が成立します。規格には重量区分もあり、たとえばかたは14.5kg未満がS、14.5〜17.5kgがM、17.5kg以上がL。サーロインは8.0kg未満がS、8.0〜10.5kgがM、10.5kg以上がLです。ネック・ともばら・すねなど一部の部位には重量区分が設けられていません。
箱には部分肉名、肉質等級、重量区分、品種・性別、脂肪厚さ、収納本数、製造年月日、製造者、工場番号、保存温度が表示されます。売り場のラベルより情報量が多いのは、プロ同士が中身を開けずに判断するためです。
売り場でよく見る「9部位」との関係
一方、消費者向けの説明では別の分け方も使われます。東京都中央卸売市場は、牛肉の主な部位をかた・かたロース・リブロース・サーロイン・ヒレ・ばら・もも・そともも・ランプの9つ、豚肉をかた・かたロース・ロース・ヒレ・ばら・もも・そとももの7つとして紹介しています。
13と9で数が違うのは、取引規格が細かく分けている部分を、売り場向けにまとめているからです。かたばらとともばらは売り場では「ばら」に、うちもも・しんたまは「もも」に含めて表示されることがあります。だからパックに「牛もも肉」と書いてあっても、中身がうちももなのかしんたまなのかまでは分かりません。
店頭でよく見る「カルビ」「ハラミ」といった名前は、規格上の部分肉名とは別の商品名です。カルビはばら系の肉を指す焼肉用の呼び名で、規格の部位名としては存在しません。名前が違うだけで別物と思わないほうが、売り場での選択肢は広がります。

「カルビとロースって結局どこの肉?」「ヒレとサーロイン、値段がこんなに違うのはなぜ?」——スーパーの精肉コーナーや焼肉店のメニューを前に、部位名の多さに戸惑った…
失敗パターン:部位名だけで選んで調理法を外す
もう一つの定番の失敗が、「もも肉」とだけ見てステーキにしてしまい、噛み切れずに残るパターンです。原因は、同じ「もも」でもうちもも・しんたま・そとももで筋の量と繊維の太さが違うのに、売り場の表示では区別が付かない点にあります。
対策は表示より断面を見ることです。繊維がはっきり見えて赤みが強いものは、薄切りか煮込みに向きます。厚切りで焼きたいなら、断面に細かい脂が散っているものを選ぶか、対面ケースで部位名を指定して切ってもらうのが確実です。どうしても厚切りで焼くなら、繊維に対して直角に切り分けると噛み切りやすくなります。
パックのラベルは、法律と業界ルールの二階建て
法律が義務づけているのは「名称」と「原産地」だけ
意外に思われるかもしれませんが、生鮮食品としての食肉に食品表示基準が義務づけている表示は、名称と原産地の2つが基本です。名称はその内容を表す一般的な名称、原産地は国産品なら国産である旨(都道府県名や市町村名でも可)、輸入品なら原産国名を表示します。
複数の原産地の肉が混ざる場合は、製品に占める重量の割合が高いものから順に表示します。また、松阪牛や神戸牛のように地名を冠した銘柄名を表示する場合、原産地名の記載を省略することはできず、主たる飼養地が属する都道府県名や市町村名などを原産地として表示する必要があります。
陳列台に載せてばら売りする場合は、パックに貼れない代わりに、名称と原産地を表示した立て札などを食品の近くに掲示します。対面ケースの上に小さな札が立っているのは、これが理由です。
部位・量目・冷凍解凍は業界の自主ルール
では「かたロース」「200g」「解凍」といった表示はどこから来ているのか。これは食肉の表示に関する公正競争規約によるものです。平成7年に公正取引委員会の認定を受けた業界の自主ルールで、種類・部位・原産地・量目・価格・冷凍解凍表示などを定めています。
対面販売では、名称(食肉の種類)、部位、原産地、量目、販売価格、そして冷凍および解凍品にあってはその旨の表示が求められます。運用しているのは全国食肉公正取引協議会で、各都道府県の協議会がまとまった組織です。施行規則は令和4年8月5日に一部変更が承認されており、ルールは固定ではなく更新されています。
買う側にとって効くのは「解凍」の表示です。解凍品は再冷凍すると品質が落ちるため、買ったその日か翌日には使い切る前提で選ぶのが安全です。表示が見当たらないときは、店員さんに聞けば答えてもらえます。
牛肉にだけ付いている10桁の番号
牛肉のパックに10桁の数字が印字されているのを見たことがあるでしょうか。これは牛トレーサビリティ法にもとづく個体識別番号です。国内で飼養される牛に耳標を装着し、その番号を生産から流通・小売まで伝達して管理する仕組みで、問題が起きたときに番号をたどって原因を究明し、回収を最小限の範囲で迅速に行うために設けられています。
枝肉、部分肉、精肉と姿が変わっても番号は引き継がれます。卸売業者は仕入れ・販売それぞれについて商品名称と数量、個体識別番号、年月日、取引先とその所在地を管理し、帳簿は1年ごとに閉鎖してその後2年間保存します。売り場の小さな数字の裏に、これだけの記録が積み上がっているわけです。
実はひき肉と味付け肉は「生鮮食品」ではない
混ぜたり味を付けたりした時点で加工食品になる
ここが精肉売り場でいちばん知られていない仕組みです。食品表示基準では、合挽肉のように複数種類の食肉を混ぜ合わせたものや、焼肉のタレに漬けた味付けカルビ、生姜焼きのタレをかけた豚肉などは加工食品に分類されます。同じ売り場、同じトレーに並んでいても、法律上の区分は別なのです。
境目は「本来の性質に新しい性質を加えたかどうか」です。単一の種類の食肉を調味せずに1つのパックに包んだものは生鮮食品のままですが、牛と豚を混ぜた瞬間、あるいはタレをかけた瞬間に加工食品になります。牛ひき肉だけなら生鮮食品、合挽きなら加工食品という線引きです。
意外と知られていませんが、この違いは表示の中身に直結します。加工食品になると原材料名や添加物の表示が必要になり、消費者は何が入っているかを確認できます。味付け肉のラベルに調味料の名前がずらりと並んでいるのは、そのためです。
ラベルの情報量が違う理由
生鮮食品の精肉は名称と原産地が基本の表示ですが、加工食品扱いになると表示項目が増えます。味付け肉を買うときにラベル裏面を見ると、原材料名の欄で肉と調味料の順番が確認できます。重量順に書かれるため、肉より先にタレの材料が並んでいれば、味付けの比率が高い商品ということになります。
選ぶ側の実利としては、内容量の読み方が変わる点が大きいでしょう。味付け肉の表示重量にはタレの重さも含まれるため、肉そのものの量は表示より少なくなります。人数分を計算するときは、味付けなしの精肉と同じ感覚で計算しないほうが安全です。
もう一つ、加工食品には保存方法の表示も付きます。味付け肉は調味液に浸っている分だけ状態が変わりやすいので、書かれている保存温度を守ることが前提になります。
失敗パターン:味付け肉を精肉と同じ感覚で買い置きする
週末にまとめ買いした味付け肉を、精肉と同じつもりで冷蔵庫の奥に置いておき、使う日に匂いが気になって捨てることになる。これも起こりやすい失敗です。原因は、味付け肉の期限を「肉だから同じくらい持つ」と考えてしまうことにあります。
対策は、買った時点でラベルの期限と保存方法を確認し、期限が近いものから使う順番を決めておくことです。加工食品と生鮮食品では期限の設定根拠が違うため、パックごとに書かれた日付を信じるのが正解です。すぐに使わないと分かっているなら、買ったその日のうちに冷凍してしまうほうが結果的に無駄が出ません。
精肉の消費期限が5日以内で切られる理由
精肉は消費期限、部分肉は賞味期限
食肉の期限表示には明確な使い分けがあります。全国食肉事業協同組合連合会の資料によると、消費期限は定められた方法で保存した場合に腐敗・変質その他の品質の劣化に伴い安全性を欠くおそれがないと認められる期限で、精肉や副生物など製造日を含めておおむね5日以内で品質の劣化がみられる食肉に表示します。
一方の賞味期限は、定められた方法で保存した場合に期待される品質の保持が十分に可能と認められる期限で、部分肉など比較的品質が劣化しにくい食肉に表示されます。同じ肉でも、真空包装された部分肉は空気に触れないぶん状態が保たれやすいという違いが、表示の種類そのものを分けているのです。
売り場での意味合いはシンプルで、消費期限が書かれているものは日付を過ぎたら食べないという判断になります。賞味期限のような「過ぎても品質次第」という余地を想定していない表示だからです。
切り方と温度で変わる、期限の目安表
期限は店ごとに設定されますが、日本食肉加工協会の期限表示フレームが目安として使われています。加工日を0日目として日数を加える方式で、同じ牛肉でも切り方と保存温度で日数が変わります。
| 形態(冷蔵部分肉が原料) | 保存10℃ | 保存4℃ | 保存0℃ |
|---|---|---|---|
| 牛・肉塊 | 3日 | 6日 | 7日 |
| 牛・スライス | 3日 | 6日 | 7日 |
| 牛・ひき肉 | 2日 | 3日 | 5日 |
| 牛・部分肉(真空包装) | ― | 26日 | 61日 |
(お肉の教科書調べ/一般社団法人日本食肉加工協会の期限表示フレームをもとに整理)
ひき肉が短いのは、切断面が桁違いに多く空気と触れる面積が広いからです。同じ牛肉でも肉塊なら4℃で6日の目安に対し、ひき肉は3日。買った日に使い切る前提で選ぶのが理にかなっています。逆に真空包装の部分肉が4℃で26日という数字を見ると、包装と温度がどれだけ効くかが分かります。
色が変わったら悪くなった? ブルーミングとメト化
パックの表面は鮮やかな赤なのに、下の面が紫がかっていて不安になった経験はないでしょうか。これは腐敗ではなく、色素たんぱく質ミオグロビンの状態の違いです。酸素と結合していない還元型は紫赤色を呈し、空気に触れて酸素が結合したオキシミオグロビンは鮮赤色になります。この変化はブルーミングと呼ばれます。
さらに酸化が進み、ヘムの2価の鉄が3価になるメト化が起きると、メトミオグロビンとなって褐色を呈します。時間が経った肉が茶色っぽく見えるのはこのためで、色の変化そのものは化学的な現象です。パックから出てくる赤い液体も血液ではなく、筋肉中の水分とミオグロビンが混ざったドリップです。
ただし、色だけで判断するのは避けてください。濁った茶色や灰色・緑色を帯びる、粘りが出る、酸っぱい匂いがするといった変化は品質劣化のサインです。判断に迷ったら、期限表示と保存温度を優先し、無理に使わないほうが安全です。
生で食べる話は、精肉とは別のルールになる
最後に安全面の話です。精肉として売られている肉は、原則として加熱して食べることを前提にしています。厚生労働省の資料によれば、生食用食肉(牛肉)は腸管出血性大腸菌およびサルモネラ属菌による危害が大きいとされ、生食用牛肉への加工は専用の設備を備えた食肉加工施設で規格基準に適合する方法により行う必要があります。飲食店や食肉販売店では、原則として加熱殺菌済の生食用牛肉を購入して調理・提供・販売することとされています。
また、牛の肝臓については、平成24年7月1日から生食用として販売・提供することが禁止されています。売り場のレバーが「加熱用」としてのみ並んでいるのは、この規制によるものです。
生食用の規格基準が設定されていても、食中毒のリスクが完全になくなるものではないと厚生労働省は説明しています。規格基準に適合した生食用牛肉であっても、子どもや高齢者など抵抗力の弱い方は生肉を食べない、食べさせないよう十分な注意が必要とされています。売り場の精肉は加熱して食べる前提の商品です。
調理の場面では、生の肉に触れた箸やトングをそのまま食べる用に使わないことも基本になります。家庭の焼肉でも、取り分け用と生肉用を分けるだけでリスクは下げられます。

焼肉屋のテーブルに置かれた黒いトング。あれで生のカルビを網にのせて、焼き上がったらそのまま自分の皿へ——という流れ、じつは食中毒対策の面ではやってはいけない持ち…
まとめ:精肉とは何かが分かると、売り場の見え方が変わる
精肉という言葉を軸に流通をたどると、売り場のパックが「牛1頭の最終形」であることが見えてきます。枝肉で格付が付き、部分肉で規格に沿って13部位に分けられ、店のバックヤードで用途に合わせて切られる。ラベルに書かれた名称・原産地・部位・期限は、その長い工程の要約です。今日の買い物では、値札の数字だけでなく、部位名と期限表示の2つを見比べてみてください。同じ価格帯でも、自分の調理法に合う1パックが選びやすくなります。
なお、表示ルールや規格は改正されることがあります。最新情報は各公的機関の公式サイトでご確認ください。

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