「この牛はA5でした」「今日の枝肉相場は高い」。焼肉店の壁や精肉店のブログでこんな言葉を見かけて、そもそも枝肉って何なんだろう、と引っかかったことはありませんか。スーパーのパックに枝肉という文字は一度も出てこないのに、肉の世界ではこの言葉が中心にある。妙な話です。
結論から言います。枝肉とは、牛や豚から頭・内臓・四肢の先端をはずして、背骨に沿って左右に割った骨付きの状態のこと。読み方は「えだにく」で、その形が木の枝に似ていることから名前がついたと説明されています。そして重要なのは、A5やA4といった格付けが付くのは、この枝肉の状態でだけだということ。売り場に並ぶサーロインのパックには、もう格付けを判定する断面は残っていません。
この記事では、公益社団法人日本食肉格付協会の牛枝肉取引規格と、家畜改良センターが公表している令和6年度の枝肉成績データをもとに、枝肉の定義から格付けの計算式、実際の平均重量、市場での売られ方まで数値で追いかけます。読み終わるころには、売り場のA5シールが今までと違って見えるはずです。
・枝肉=頭部・内臓・四肢の先端を除き、背骨で左右に割った骨付きの肉
・A5などの格付けは枝肉の状態でしか付かない(第6・第7肋骨の間を切り開いて判定)
・令和6年度の黒毛和種去勢の平均枝肉重量は513.4kg、雌は459.8kg
・枝肉→部分肉→精肉と加工が進むたびに重量は目減りしていく
枝肉とは?頭も内臓も外した「骨付きの半身」のこと

正体は、背骨で真っ二つに割られた骨付きの肉
枝肉とは、家畜の頭部・内臓や四肢の先端を取り除いた、骨付きの肉のことです。日本食肉格付協会の牛枝肉取引規格では、はく皮(皮をはぐ)、頭部切断、内臓割去という3つの処理を行い、前肢・後肢・尾を切断したうえで、脊柱の中央に沿って左右の半丸枝肉に切断する、と整形方法が定められています。
なぜここまで細かく決めるかというと、取引の単位を全国で揃えるためです。ある工場は尾を残し、別の工場は残さないという状態では、重さも見た目も比較になりません。整形方法を規格で固定してはじめて、1kgあたりいくらという値段のつけ方が成立します。
実際の売り場でこの状態を見る機会はまずありません。枝肉が並ぶのは食肉市場のセリ場と、卸業者の冷蔵庫の中です。左右に割った片側だけを「半丸」または「半丸枝肉」と呼び、これが取引の最小単位になります。焼肉店のオーナーが「今日は半丸で1本買った」と言うのは、この片側1つのことを指しています。
注意したいのは、枝肉は骨がついたままだという点。骨も脂も全部込みの重さなので、枝肉の重量をそのまま食べられる肉の量だと思うと、後で大きくずれます。ここから先の工程で、重さはどんどん落ちていきます。
「枝」なのに枝分かれしていない、名前の由来
枝肉の「枝」は、その形が木の枝に似ていることに由来すると説明されています。頭も脚の先も内臓もない状態で吊るされた半身は、たしかに幹から切り出した太い枝のようなシルエットになります。
読み方は「えだにく」。「しにく」でも「えだじし」でもありません。肉の業界用語には、ばら・かた・らんいちのようにひらがな表記が正式なものが多く、枝肉もその流れで漢字2文字+訓読みという素朴な名前になっています。
言葉の使い分けで迷いやすいのが「と体(とたい)」との違いです。と体は、と畜した直後のまだ処理が終わっていない体全体を指す言葉で、そこから内臓や皮を外して整形したものが枝肉。つまり、と体は工程の前、枝肉は工程の後の呼び名だと思っておくと混乱しません。
豆知識として、格付けの計算式には「冷と体重量」という項目が出てきます。これは冷却した後の枝肉の重さのこと。整形直後の枝肉は、丸1日冷蔵庫で冷やしてから計量・格付けされるため、水分が抜けた後の重さで評価される仕組みになっています。
腎臓と腎臓脂肪だけは、なぜか枝肉に残る
「内臓は全部外す」と説明しましたが、実は1つだけ例外があります。牛枝肉取引規格には「腎臓及び腎臓脂肪は枝肉に残し、その他の内臓はすべて摘出」と明記されているのです。焼肉でいうマメ(腎臓)は、枝肉にくっついたまま取引されます。
理由は、腎臓のまわりについた脂肪(ケンネ脂)が枝肉の一部として評価される慣行にあります。この脂肪は牛脂の原料としても使われるもので、内臓として別扱いにするより枝肉に含めたほうが取引の実態に合う、という判断です。
ここで一つ、意識しておきたいことがあります。枝肉重量には腎臓と腎臓脂肪の重さも入っている、ということ。後で出てくる513.4kgという平均値にも、この分が含まれています。純粋に食べる部分だけの重さではない、という前提を持っておくと数字の読み方がぶれません。
ちなみに、豚の枝肉取引規格でも「腎臓は枝肉に残す」という点は共通しています。牛と豚で整形の細部は違いますが、腎臓の扱いだけは揃っているのが面白いところです。
子牛の枝肉には、そもそも規格が適用されない
牛枝肉取引規格の適用範囲には「品種、年令、性別にかかわらず、いずれの枝肉にも適用するものとする。ただし、子牛の枝肉には適用しないものとする」と書かれています。つまり、和牛だろうと乳用種だろうと交雑種だろうと同じ物差しで測るけれど、子牛だけは対象外だということです。
これは、子牛の枝肉は体格も肉質も成牛とまったく違うため、同じ計算式に当てはめると意味のない数字が出てしまうからです。ヨーロッパで人気の仔牛肉(ヴィール)が日本の売り場でA5表記を見かけないのは、そもそも格付けの土俵に上がっていないためでもあります。
見分け方としては、パックのラベルに等級表示がない国産牛肉に出会ったとき、それが必ずしも「品質が低いから等級がない」わけではない、と知っておくこと。格付けは義務ではなく、市場や食肉センターに出荷された枝肉に対して行われるものです。産地直送などのルートでは、格付けを受けずに流通する肉もあります。
やりがちな失敗は、等級表示がない=格下と決めつけてしまうこと。等級は取引の共通言語であって、おいしさの保証書ではありません。この点は記事の後半でもう一度掘り下げます。
生体・枝肉・部分肉・精肉、売り場に並ぶまでの4段階
牛肉はこの4段階を必ず通る
牛肉が私たちの手元に届くまでには、生体→枝肉→部分肉→精肉という4つの段階があります。この順番は例外なく、枝肉の状態を経ずに食肉になることはありません。まず生きた牛(生体)が食肉センターに運ばれ、と畜・整形されて枝肉になり、そこから部位ごとに切り分けられて部分肉になり、最後に小売向けにスライスされて精肉になります。
この流れを押さえると、業界の会話がぐっとわかりやすくなります。「相場」といったとき、生産者や卸が見ているのは枝肉の円/kg。小売店が見ているのは部分肉の仕入れ値。私たち消費者が見ているのは精肉のグラム単価。同じ牛肉の話をしていても、見ている段階が違うのです。
部分肉になると、ようやく知っている名前になる
部分肉とは、枝肉から各部位ごとに分割カットし、骨や余分な脂肪を取り除いて整形した状態の肉のことです。ここではじめて、サーロイン・リブロース・ヒレ・ともばらといった、私たちが知っている部位名が登場します。
牛の場合、取引の基本になるのが13部位。ネック、肩ロース、うで、肩バラ、サーロイン、リブロース、ヒレ、ともばら、うちもも、しんたま、そともも、らんいち、すねという分け方で、これが表示の法規や業界の取引規格にも出てくる標準的な区分です。焼肉店のメニューにあるミスジやイチボは、この13部位をさらに細かく分けた「小分割」の名前だと考えるとすっきりします。
スーパーで確認できるポイントとしては、精肉パックのラベルに書かれた部位名が13部位の名前そのものか、もっと細かい名前かを見ること。「かたロース」「もも」のような大きな括りなら部分肉に近い分け方、「ミスジ」「トモサンカク」なら小分割まで進んだ商品です。細かい名前ほど、その部位だけを取り出す手間がかかっています。
知っておくと得なのは、部分肉の段階では真空パックで流通することが多く、賞味期限が精肉より長いという点。ブロックで買ったほうが日持ちするのはこの流通形態の名残でもあります。

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段階が進むたびに、重さは静かに減っていく
4段階を進むあいだ、重量はずっと減り続けます。この目減りの割合が「歩留まり(ぶどまり)」です。生体重に対する枝肉の割合を枝肉歩留まり、体重に対する正肉(枝肉から骨と余分な脂肪を取り除いたもの)の割合を正肉歩留まりと呼びます。
日本農業新聞のコラムでは、黒毛和種の枝肉歩留まりの目安として63%前後、生体から見た精肉歩留まりの目安として約36%という数字が紹介されています。ただしこの手の数値は資料によって幅があり、品種・肥育方法・整形の程度で変わるため、あくまで目安として受け取るのが正解です。
具体的なイメージに落とすとこうなります。生きているときの体重を100とすると、枝肉になった時点で6割強、そこから骨と余分な脂を取って食べられる肉になった時点で4割弱。つまり、生体の3分の2近くが食用以外の部分や加工ロスになっている計算です。牛肉が安くならない構造的な理由の一つが、ここにあります。
ここで気をつけたいのは、この目減りは無駄ではないということ。取り除かれた内臓はホルモンとして、脂は牛脂として、骨はスープの材料として使われます。歩留まりの数字は「捨てている割合」ではなく「精肉として売れる割合」を示しているだけです。
A5の「A」は、断面の4つの数字から計算されている

第6と第7の肋骨の間を、まっすぐ切り開く
格付けの判定は、枝肉をただ眺めて行うわけではありません。牛枝肉取引規格には「第6肋骨と第7肋骨との間で平直に切り開く」と規定されており、この決められた1か所の断面だけを見て等級を決めます。
なぜこの位置かというと、リブロースの断面が最もきれいに現れ、かつ牛の体格差の影響を受けにくい場所だからです。同じ牛でも、肩寄りで切るかもも寄りで切るかでサシの入り方はまるで違います。切開位置を固定してはじめて、全国何十万頭を同じ基準で比べられます。
実際の現場では、せり販売前に上場する枝肉を懸垂したまま左右別々に計量機にかけて重量を量り、そのうえで格付けが行われます。格付員が断面を見て判定するのは一瞬ですが、その一瞬で1頭あたり数十万円の値段が動きます。
覚えておきたいのは、この断面はリブロースとサーロインの境目付近だということ。売り場でリブロースの断面を見て「サシがきれいだな」と思ったとき、あなたは格付員とほぼ同じものを見ています。
歩留基準値は、たった1本の式で計算される
歩留等級のA・B・Cは、感覚ではなく計算式で決まります。牛枝肉取引規格に定められた式はこうです。
歩留基準値=67.37+〔0.130×胸最長筋面積(cm2)〕+〔0.667×ばらの厚さ(cm)〕−〔0.025×冷と体重量(kg)〕−〔0.896×皮下脂肪の厚さ(cm)〕
※肉専用種は2.049を加算する
式を読むと、何が評価されているかがはっきりします。プラスに効くのは胸最長筋面積(いわゆるロース芯面積)とばらの厚さ。マイナスに効くのは皮下脂肪の厚さと冷と体重量。要するに「肉の部分が大きく、外側の脂が薄い枝肉ほど高い値になる」という設計です。
係数を見ると、皮下脂肪の厚さの係数−0.896が最も大きい。皮下脂肪が1cm厚くなるだけで、歩留基準値は0.896下がります。ロース芯面積が1cm2増えて上がるのが0.130ですから、脂の厚さ1cmを取り返すには、ロース芯面積を約7cm2広げなければならない計算になります。肥育の現場で外脂の管理が重視されるのは、この係数のためです。
肉専用種(黒毛和種などの肉用品種)に2.049が加算されるのは、同じ断面でも肉用種のほうが実際の部分肉歩留が高いという実測に基づく補正です。乳用種と和牛を同じ式に入れると和牛が不利になるため、あらかじめゲタを履かせています。
72と69という2つの数字が、A・B・Cを分ける
計算された歩留基準値が72以上ならA、69以上72未満ならB、69未満ならCです。農林水産省の資料では、それぞれ「部分肉歩留が標準より良いもの」「部分肉歩留の標準のもの」「部分肉歩留が標準より劣るもの」と説明されています。
| 歩留等級 | 歩留基準値 | 意味 | 令和6年 全体に占める割合 |
|---|---|---|---|
| A | 72以上 | 部分肉歩留が標準より良いもの | 32.5% |
| B | 69以上72未満 | 部分肉歩留の標準のもの | ― |
| C | 69未満 | 部分肉歩留が標準より劣るもの | ― |
この表で目を引くのは、A等級が全体の32.5%しかないという点です。売り場ではA5・A4ばかり見かけるのに、格付けされた牛全体で見るとA等級は3頭に1頭。乳用種や交雑種を含めた数字だからです。品種を和牛去勢に絞ると景色は一変し、A-5だけで67.2%、A-4が24.1%、A-3が5.3%と、9割以上がA-4以上になります。
やりがちな勘違いは、Aを「品質のランク」だと思ってしまうこと。Aはあくまで「1頭からどれだけ多く肉が取れるか」の指標で、食べる私たちにとっての価値とは直結しません。買う立場から見れば、Aは肉屋さんの仕入れ効率の話です。

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5・4・3の数字は、4項目の「最低点」で決まる
評価するのは脂肪交雑・色沢・締まりときめ・脂肪の色沢と質
肉質等級は、脂肪交雑、肉の色沢、肉の締まり及びきめ、脂肪の色沢と質という4項目で判定されます。それぞれ5〜1の5段階で評価されますが、決め方に大きな特徴があります。
規格には「その項目別等級のうち、最も低い等級に格付けするもの」と定められています。平均ではなく、最低点。脂肪交雑が5、色沢が5、締まりときめが5でも、脂肪の色沢と質が3なら、その枝肉の肉質等級は3です。1項目でも落ちれば、そこで頭打ちになります。
この仕組みを知らずに「サシがすごいのにA3だった」と首をかしげる人は多いはず。実際には、サシの量(脂肪交雑)は5に届いていたけれど、脂肪の色が黄色みを帯びていて3に落ちた、というケースが起こり得ます。牧草の給与量が多いと脂肪にカロテンが移行して黄色くなりやすく、これが等級を下げる要因になります。
失敗パターンとしてよくあるのが、「等級が高い=サシが多い」と単純に読み替えてしまうこと。原因は、4項目のうち脂肪交雑だけがメディアで取り上げられるからです。対策はシンプルで、等級は4項目の最低値だと覚えておくこと。等級だけでは、どの項目が足を引っ張ったのかまでは読めません。
脂肪交雑はBMS12段階、色はBCS・BFSの7段階で測る
4項目のうち3項目には、判定を助けるための標準模型(見本)が用意されています。脂肪交雑はB.M.S.(Beef Marbling Standard)でNo.1〜No.12の12段階、肉の色沢はB.C.S.(Beef Color Standard)でNo.1〜No.7の7段階、脂肪の色沢と質はB.F.S.(Beef Fat Standard)でNo.1〜No.7の7段階です。
| 肉質等級 | 脂肪交雑(B.M.S.) | 肉の色沢(B.C.S.) | 脂肪の色沢と質(B.F.S.) |
|---|---|---|---|
| 5 | No.8〜No.12 | No.3〜No.5 | No.1〜No.4 |
| 4 | No.5〜No.7 | No.2〜No.6 | No.1〜No.5 |
| 3 | No.3〜No.4 | No.1〜No.6 | No.1〜No.6 |
| 2 | No.2 | No.1〜No.7 | No.1〜No.7 |
| 1 | No.1 | 上記以外 | 上記以外 |
表を横に読むと、面白い非対称性が見えてきます。脂肪交雑は12段階を5等級に割り振っていて、5等級だけがNo.8〜No.12という5段階分の幅を持つ。一方、色の項目は5等級のほうが範囲が狭い。色は「明るすぎても暗すぎてもダメ」という中央寄りの評価だからです。
売り場での見分け方に応用するなら、赤身の色に注目してみてください。B.C.S.でいうNo.3〜No.5に当たるのは、鮮やかすぎず暗すぎない、落ち着いた赤。パックの中で妙に鮮やかなピンクや、逆に黒ずんだ赤は、格付けの世界では評価が下がる方向の色です。
残る1項目「肉の締まり及びきめ」には見本模型がなく、かなり良い・やや良い・標準・標準に準ずる・劣るの5段階を格付員が目と手で判定します。ここだけは人の感覚に委ねられている部分です。

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実は、5項目のどこにも「味」という評価軸がない
意外と知られていないのですが、歩留等級と肉質等級を合わせた全5項目のなかに、味を評価する項目は1つもありません。評価されるのは、肉が何kg取れるか、サシがどれだけ入っているか、色はどうか、締まりときめはどうか、脂の色と質はどうか、それだけです。
これは規格の欠陥ではなく、設計思想の問題です。格付けの目的は、日本食肉格付協会が掲げているとおり「中立の立場で取引される食肉について1頭毎に格付を行い、公正な食肉価格の形成を図る」こと。味は人によって好みが分かれるうえ、その場で全頭を食べて判定することもできません。だから、誰が見ても同じ答えになる項目だけを規格に採用しています。
この視点を持つと、A5という表示の意味が変わります。A5は「1頭から取れる肉が多く、サシがよく入り、色や締まりの見た目が整った枝肉」の証明であって、「あなたの舌に合う肉」の証明ではありません。赤身の旨味が好きな人にとっては、A3の肉のほうが満足度が高いことも当たり前に起こります。
実際、日本三大和牛と呼ばれる銘柄のなかにも、A5であることを産地の定義に含めていないものがあります。等級と銘柄は別の物差しだ、と押さえておくと産地表示の読み方も深まります。
数字で見る令和6年度の枝肉:去勢513.4kgの中身
去勢と雌では、枝肉重量にはっきり差が出る
家畜改良センターが公表した「枝肉成績とりまとめ概要(令和6年度)」には、黒毛和種267,400頭分の実測平均が載っています。これは日本食肉格付協会が令和6年度に格付した和牛529,071頭の50.5%にあたる、かなり大きなサンプルです。
去勢の平均枝肉重量は513.4kg、雌は459.8kg。去勢のほうが体格が大きく、成長も速いためで、日齢枝肉重量(1日あたり何kg枝肉が増えたか)で見ると去勢0.583kg/day、雌0.516kg/dayという差になります。
| 状態 | 頭部・内臓・四肢の先端を除き、背骨で左右に割った骨付きの肉 |
| 平均重量(去勢/雌) | 513.4kg / 459.8kg |
| ロース芯面積(去勢/雌) | 70.3cm2 / 68.5cm2 |
| 皮下脂肪の厚さ(去勢/雌) | 2.29cm / 2.66cm |
| 歩留基準値(去勢/雌) | 75.75 / 75.58(いずれもA等級の水準) |
| BMS平均(去勢/雌) | 9.05 / 8.74(肉質5等級の範囲) |
注目したいのは皮下脂肪の厚さで、去勢2.29cmに対して雌は2.66cm。雌のほうが外側に脂を蓄えやすいという体質の差が、そのまま数字に出ています。歩留基準値の計算式で皮下脂肪の係数がマイナス0.896と大きいことを思い出すと、この厚みの差は歩留基準値を押し下げる方向にはっきり効いてきます。
それでも歩留基準値は去勢75.75、雌75.58とほぼ拮抗しているのは、雌もロース芯面積68.5cm2としっかり確保しているから。加えて、冷と体重量が軽い雌のほうが計算式のマイナス項が小さくなる、という構造も効いています。
お肉の教科書調べ:12年で枝肉はここまで変わった
同じ資料には平成25年度からの推移も載っています。去勢の数値だけを抜き出して並べると、この12年で日本の和牛がどう変わったかが一目でわかります。
| 項目(黒毛和種・去勢) | 平成25年度 | 令和6年度 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 枝肉重量 | 481.8kg | 513.4kg | 増加 |
| ロース芯面積 | 58.2cm2 | 70.3cm2 | 拡大 |
| ばらの厚さ | 7.85cm | 8.50cm | 厚くなった |
| 皮下脂肪の厚さ | 2.43cm | 2.29cm | 薄くなった |
| 歩留基準値 | 74.01 | 75.75 | 上昇 |
| BMS No. | 6.21 | 9.05 | 上昇 |
※お肉の教科書調べ。数値は家畜改良センター「枝肉成績とりまとめ概要(令和6年度)」より抜粋・整理
いちばん大きく動いたのはBMS No.で、6.21から9.05へ跳ね上がりました。BMS No.8以上が肉質5等級ですから、平均値そのものが5等級の範囲に入ったということです。和牛去勢のA-5比率が67.2%まで伸びた背景には、この育種と肥育技術の積み重ねがあります。
もう一つ見逃せないのが、皮下脂肪が2.43cmから2.29cmへ薄くなっている点。サシは増やしつつ、外側の脂は削る。相反する方向の改良を同時に進めた結果が、歩留基準値が74.01から75.75へ伸びたことに表れています。
この数字から、1頭でステーキ何枚分が取れるのか
去勢の平均枝肉重量513.4kgを起点に、規模感をつかんでみます。生体から見た精肉歩留まりの目安が約36%、枝肉歩留まりの目安が63%前後という数字を使うと、枝肉重量に対して実際に売り場に出せる精肉はおよそ6割弱にとどまる、という見当になります。
その精肉のうち、サーロインが占めるのはごく一部です。牛1頭という巨大な数字の割に、サーロインステーキが高いままである理由がここにあります。1頭からたくさん取れる部位と、ほんの少ししか取れない部位の価格差は、この構造から生まれています。
気をつけたいのは、この換算はあくまで目安だということ。歩留まりは品種・肥育期間・整形の程度で変わりますし、「食べられる部分」の定義も業者によって幅があります。数字を持ち出すときは「およそ」を付けるのが誠実な使い方です。
それでも、この規模感を知っておく価値はあります。焼肉店で希少部位の値段を見たとき、「1頭からこれだけしか取れないなら納得だな」と思えるかどうかで、同じ金額の受け取り方が変わるからです。
枝肉はどう売られる?セリと相対、円/kgの世界
市場では機械セリで、1頭ずつ値段がつく
枝肉の取引は、食肉卸売市場で行われます。東京都中央卸売市場の解説によれば、枝肉はセリ値表示装置を用いた「機械セリ」という方法で売買され、買い手である仲卸業者が落札します。
流れはこうです。せり販売前に上場する枝肉を懸垂したまま左右別々に計量機にかけて重量を量り、格付けを受けます。せり人が1頭1頭を見て、せりを開始する台付(初期金額)を決める。買受人は無線応札器を使い、電光掲示板を見ながら応札し、最高値をつけた買い手が落札する「せり上げ方式」です。
ここで重要なのが、値段の単位が円/kgだということ。落札価格は「枝肉1kgあたりいくら」で決まり、それに枝肉重量を掛けたものが1頭の代金になります。だから生産者にとっては、単価だけでなく重量も収入を左右する要素になります。
もう一つの取引方法が相対(あいたい)取引です。売り手の卸売業者と買い手が数量や価格を個別に交渉して販売する方法で、日々変動するセリ価格の影響を受けにくいのがメリット。安定して同じ品質の肉を仕入れたい大手の外食チェーンなどが使う仕組みです。
枝肉相場は、品種と等級でこれだけ違う
JA全農ミートフーズが公表している東京市場の枝肉卸売価格を見ると、品種と等級による差がはっきりわかります。2026年6月の速報値(6月30日時点)は次のとおりです。
| 区分 | 枝肉卸売価格(円/kg) | 和牛去勢A5との差 |
|---|---|---|
| 和牛去勢A5 | 2,625円程度 | ― |
| 和牛去勢A4 | 2,434円程度 | 約0.93倍 |
| 交雑去勢B3 | 1,802円程度 | 約0.69倍 |
| 乳牛去勢B2 | 1,314円程度 | 約0.50倍 |
※2026年6月速報値(6月30日時点)。枝肉相場は日々変動するため、最新の数値は公式資料で確認してください
和牛去勢A5と乳牛去勢B2では、1kgあたりの単価が約2倍違います。この差が、売り場での和牛と国産牛の価格差の出発点です。ただし、精肉になるまでに部位ごとの単価差がさらに乗るため、売り場での価格差は枝肉段階の2倍よりも大きくなったり小さくなったりします。
覚えておきたいのは、相場は日々動くということ。牛の出荷頭数、輸入牛肉の動向、外食需要、贈答シーズンなどで上下します。ここに載せた数字も特定時点のスナップショットであり、来月には変わっている前提で見てください。
豚の枝肉は、重さと背脂肪の厚さで等級が決まる
牛ばかり話してきましたが、豚にも枝肉取引規格があります。等級は極上・上・中・並・等外の5段階で、判定項目は外観(均称、肉づき、脂肪付着、仕上げ)と肉質(締まり、色沢、脂肪の質、沈着)です。
面白いのは、豚では重量と背脂肪の厚さに明確な範囲が定められている点。皮はぎ用の場合、極上は重量73.0〜81.0kgかつ背脂肪の厚さ1.5〜2.1cm、上は68.0〜83.0kgかつ1.3〜2.4cm、中は63.0〜88.0kgかつ0.9〜3.0cmと決まっています。重すぎても軽すぎても、脂が厚すぎても薄すぎても等級は上がりません。
牛がA5に向かってサシを増やす競争をしているのに対し、豚は「決められた枠にぴったり収める」ことを競う規格になっている。この設計思想の違いは、そのまま両者の使われ方の違いを表しています。豚肉はハム・ソーセージなどの加工原料としての用途が大きく、規格が揃っていることに価値があるからです。
令和6年の格付頭数を見ると、牛が1,115,113頭に対して豚は12,440,541頭。桁が一つ違います。それだけ大量に流通するからこそ、豚では「均一であること」が規格の中心に据えられているわけです。
枝肉を知ると、A5シールの見え方が変わる3つの視点
A5を買っても満足できない、よくある失敗
枝肉の格付けを理解したうえで、売り場の話に戻ります。よくある失敗が、記念日にA5サーロインを500g買って、家族全員が半分も食べられずに残してしまうというもの。原因は等級選びではなく、脂質量の見積もりです。
日本食品標準成分表(八訂)増補2023年によれば、和牛肉サーロイン(脂身つき・生)は100gあたり460kcal、たんぱく質11.7g、脂質47.5g。一方、和牛肉もも(赤肉・生)は176kcal、たんぱく質21.3g、脂質10.7gです。脂質はおよそ4.4倍、エネルギーは2.6倍の開きがあります。
対策は、A5を買うなら量を減らすこと。1人100gを目安にして、残りの量は赤身部位やもも肉で組み立てる。同じ予算でも、A5サーロイン100g+和牛もも200gという構成にすると、最後まで箸が進みます。等級を下げるのではなく、部位で調整するのがコツです。
もう一つの対策は、脂の融点を意識すること。冷めると脂が固まる部位ほど、食べ疲れが早く来ます。A5の霜降りは焼きたてを少量ずつ、が理にかなった食べ方です。
タイプ別、枝肉の知識をどう使うか
枝肉の知識は、読者のタイプによって使いどころが変わります。3つのパターンで整理してみます。
贈答・記念日で選ぶ人は、等級より銘柄と部位の組み合わせを見るのが実用的です。A-5は和牛去勢の67.2%を占めるため、A5であること自体の希少性は以前ほど高くありません。むしろ「どの産地の、どの部位を、何g」で選ぶほうが失敗しません。
普段の食卓でコスパを重視する人は、交雑種を狙う価値があります。枝肉段階で和牛去勢A5の約0.69倍の単価。和牛の風味と赤身のバランスを持ちながら、価格は抑えめです。売り場では「国産牛」「交雑種」と表示されています。
栄養を管理している人は、等級ではなく部位表示だけを見ればじゅうぶんです。もも・ヒレの赤身か、サーロイン・ばらの脂身つきか。この二択で脂質は数倍動きます。等級は栄養価とは無関係の指標です。
知っておきたい、等級表示に頼りすぎないという考え方
格付けは公正な取引のための仕組みであって、消費者向けの品質保証制度として作られたものではありません。日本食肉格付協会も、格付の目的として「公正で自由な食肉取引が推進され、公正な食肉価格の形成が行われ」ることを挙げています。買い手と売り手が同じ土俵で値段を決めるための共通言語、それが本質です。
だから、売り場で等級表示だけを見て選ぶのは、価格を決めるための道具を品質判断に流用していることになります。もちろん一定の相関はありますが、それは「サシが多い肉が好きな人にとって」という条件付きです。
格付けは枝肉の断面を見て歩留まりと肉質を評価する仕組みで、鮮度や衛生状態を保証するものではありません。購入後の扱いは等級に関係なく、消費期限とチルド保存の基本を守ることが前提になります。加熱の要否や生食の可否については、等級ではなく厚生労働省などの公的機関が示す指針を確認してください。
結局のところ、いちばん確実なのは断面を自分の目で見ることです。格付員が第6・第7肋骨間の断面を見て判定しているのと同じように、私たちもパックの中の断面を見ることができます。サシの入り方、赤身の色、脂の白さ。判定基準を知っていれば、シールを見なくても自分で選べるようになります。
一次情報にあたりたい人は、公益社団法人日本食肉格付協会の牛枝肉取引規格と、家畜改良センターの肉用牛枝肉情報全国データベースを覗いてみてください。規格の条文も、全国の実測平均も、どちらも公開されています。
まとめ:牛肉の入口を知ると、売り場の見え方が変わる
枝肉は、牛肉のすべてが始まる最初の形です。生きた牛が枝肉になり、部分肉に分かれ、精肉になって売り場に並ぶ。この4段階のうち、格付けが行われるのは枝肉の1回だけで、あとの工程では等級は動きません。だから、A5という表示は「その肉が今おいしい」という話ではなく、「この肉が取れた牛の枝肉はこう評価された」という履歴なのです。
そして格付けの中身を分解すると、歩留等級のA・B・Cは1頭から取れる肉の量、肉質等級の5〜1はサシ・色・締まりときめ・脂の色と質の4項目の最低点。5項目のどこにも味の評価軸はありません。令和6年度の黒毛和種去勢の平均BMSは9.05で、これは肉質5等級の範囲。和牛去勢のA-5比率が67.2%まで伸びた今、A5であること自体は以前ほど珍しい情報ではなくなっています。
最初の一歩としておすすめなのは、次に売り場でパックを手に取ったとき、シールではなく断面を3秒見ること。サシの入り方、赤身の色、脂の白さ。格付員が見ているのと同じ3点です。これを続けるうちに、等級表示がなくても自分の好みに合う肉を選べるようになります。
※記事中の規格・統計は公表資料に基づく特定時点の内容です。枝肉相場は日々変動します。最新情報は公式サイトでご確認ください。

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