希少部位として売られているミスジを買ってきたのに、焼いたら思ったより噛み切れなかった。中心の白い筋がゴムのように残って、周りの赤身はパサパサ。そんな引っかかりを抱えて「ミスジステーキ 柔らかくする方法」と検索している人は少なくありません。
先に結論を言うと、ミスジが硬くなる原因はほぼ2つに絞れます。中心を走る1本の筋を処理していないことと、焼きすぎて水分が飛んでいることです。裏を返せば、筋を切って中心温度を55〜60℃で止めるだけで、ミスジは買った時点の柔らかさをそのまま皿に出せます。高い調味料も特別な道具も要りません。
この記事では、農林水産省が公開しているミスジの部位解説や、食肉メーカーが説明している筋繊維の仕組みをもとに、焼く前の下ごしらえ・筋切り・漬け込み・火加減・焼いた後の休ませ方を順番に整理します。厚さ2〜3cmのコストコサイズから、スーパーの薄めのカットまで、手持ちの1枚に当てはめて読めるように数値で書きました。
・ミスジが硬く感じる本当の原因と、中心の筋の正体
・1枚2分で終わる筋切りの手順と、包丁の入れ方
・玉ねぎ・舞茸・塩麹に15〜30分漬ける科学的な理由
・焼き加減別の中心温度と、ミスジに向く55〜60℃の狙い方
・焼いた後に3〜5分休ませると肉汁が流れ出なくなる仕組み
ミスジが硬い・パサつくと感じる3つの理由

ミスジは肩甲骨の内側にある希少部位
ミスジは、牛の肩甲骨の内側に張り付いている「かた肉」の一部です。農林水産省の部位解説によると、牛1頭から取れるのは約3キログラムほど。別の解説では約400kgの牛1頭から1〜2kgとされることもあり、いずれにせよ1頭あたりの量が限られる希少部位という位置づけは変わりません。英語の加工名称では「トップブレード」と呼ばれます。
おもしろいのは、肩まわりの肉でありながら柔らかい点です。肩周りはよく動かす筋肉のため硬い肉質になりがちですが、ミスジだけはあまり動かないので、霜降りが入り柔らかい肉質になると農林水産省は説明しています。腕の部位の中では霜降りが最も豊富で、脂の口溶けがよく、独特の食感と風味が味わえるのがミスジの持ち味です。
つまりミスジは、もともと「柔らかい側」の肉です。硬く仕上がったとすれば、それは部位のせいではなく扱い方のどこかに原因があると考えたほうが早い。ここが、すね肉やもも肉を柔らかくする話とは出発点が違うところです。

焼肉店のメニューで「ミスジ」を見かけて、なんとなく美味しそうだけど「結局どこの部位なの?」「カルビやロースと何が違うの?」と気になったことはありませんか。名前は…
中心を走る1本の筋が「噛み切れない」の正体
ミスジという名前は、肉の中心とその上下に3本のすじが入っていることから「三筋」と呼ばれるようになった、という説明が一般的です。このうち食べたときにはっきり存在感が出るのが、断面の真ん中に1本通っている太い筋です。
この筋はコラーゲンが集まった組織で、ステーキのような短時間の加熱では溶けません。煮込みなら長時間かけてゼラチン化しますが、片面1〜2分の世界では硬いまま残ります。だから「肉はやわらかいのに、一口だけゴムっぽい」という妙な食べ心地になるわけです。
見分け方は簡単で、生の状態で断面を見ると白っぽい帯が横一文字に走っています。スーパーのパックなら上からでも透けて見えることが多い。この帯が太い個体ほど、後述する筋切りの効果が大きく出ます。逆に、薄く切られた焼肉用のミスジでは筋がすでに細かく分断されているので、そこまで神経質になる必要はありません。
注意したいのは、この筋を「脂身」と勘違いして残してしまうケースです。脂は加熱で溶けて口に残りませんが、筋は残ります。白い部分がすべて脂とは限らない、と覚えておくと判断を間違えません。
水分量が少ないから、焼きすぎがそのままパサつきになる
もう一つの原因が加熱しすぎです。農林水産省の解説でも、ミスジは水分量が少ないため、加熱しすぎるとパサパサになってしまうので注意が必要だと明記されています。霜降りが入っているイメージから「多少焼いても大丈夫だろう」と思われがちですが、実際は逆で、火を入れすぎたときのダメージが出やすい部位です。
肉は加熱されると筋繊維が縮み、内部の水分を押し出します。水分の余裕が少ないミスジでは、この押し出しがそのまま食感の劣化に直結する。焼き加減で言えば、ミディアムを越えてウェルダン方向に進んだ瞬間に「硬い・パサつく」という感想に変わります。
よくある失敗が、焼き色を強く付けようとして触りながら長く焼いてしまうパターンです。表面の茶色は香ばしさの元ですが、色を追いかけている間に中心温度は上がり続けます。ミスジでは「焼き色は短時間・中心は低め」の両立が課題になります。
実は「柔らかくする」より「硬くしない」ほうが効く
意外と知られていないのですが、ミスジに関しては、柔らかくするテクニックを足していくより、硬くする行為を引き算するほうが結果が出ます。もともと柔らかい部位なので、伸びしろは「余計なことをしない」側にあるからです。
具体的には、冷たいまま強火に放り込む、何度もひっくり返す、焼き上がりを待たずに切る、この3つをやめるだけで食感は変わります。酵素に漬ける、叩く、といった加工はその後の話です。実際、下処理として最初に挙げられるのは解凍と室温戻しという、道具の要らない工程です。
この記事の構成も、その順番で組んでいます。下ごしらえ(見出し-2)→筋切り(見出し-3)→漬け込み(見出し-4)→火加減(見出し-5・見出し-6)→休ませ(見出し-7)。上から順にやれば、漬け込みまで到達しなくても十分な結果になる人が多いはずです。
| 部位の位置 | 肩甲骨の内側に位置するかた肉の一部 |
| 1頭から取れる量 | 約3キログラム(1〜2kgとする資料もあり) |
| 霜降りの入り方 | 腕の部位で最も豊富 |
| 食感・味の特徴 | 赤身と脂肪のバランスが良く、やわらかくも歯切れのよい食感。脂の口溶けがよい |
| 名前の由来 | 肉の中心とその上下に3本のすじが入ることから「三筋」 |
| おすすめ調理法 | ステーキ(最も推奨)/焼肉/しゃぶしゃぶ。醤油ベースのソースと好相性 |
ミスジステーキを柔らかくする方法は焼く前の下ごしらえで決まる
解凍は前日の夜から冷蔵庫でゆっくり
冷凍のミスジを使うなら、前日の夜に冷蔵庫へ移してゆっくりと解凍するのが理想的です。急速解凍は肉汁が流れ出し、パサつきの原因となります。ここが最初の分岐点で、解凍の段階で肉汁を失った肉は、そのあとどれだけ丁寧に焼いても戻りません。
理由は氷の結晶の大きさにあります。ゆっくり温度が上がると細胞へのダメージが小さく、溶けた水分が肉の中に戻りやすい。逆に電子レンジや流水で一気に温度を上げると、外側だけ先に緩んでドリップが大量に出ます。パックの底に赤い液体がたまっていたら、それは旨みごと抜けた合図です。
やりがちな失敗①:当日の夕方に思い出して流水解凍。原因は「焼く前に室温に戻す時間」まで含めて逆算していないことです。対策は、買った日にそのまま冷凍せず、食べる前日の夜に冷蔵庫へ移すところまでを一連の作業としてセットにすること。どうしても時間がない場合は、解凍しきらずに半解凍で止め、その分だけ室温に置く時間を長めに取るほうが被害は小さく済みます。
焼く約30分前に冷蔵庫から出す
解凍済み・チルドどちらの場合も、調理開始の約30分前には冷蔵庫から出し、室温に戻しておきます。厚みのあるカットなら30分〜1時間ほど室温に置き、指で押してみて弾力を感じるくらいが目安です。
目的は、肉全体に均一に火が通りやすくすること。冷蔵庫から出したての中心は冷たく、表面との温度差が大きい状態です。その差を抱えたまま焼くと、中心を目標温度まで持っていくあいだに外側が焼けすぎ、「外はパサパサ、中は冷たい」という残念な断面になります。厚さ2〜3cmのミスジでは、この差が食感にはっきり出ます。
ただし置きっぱなしは別のリスクを招きます。夏場や暖房の効いた室内で長時間放置するのは避け、目安の時間を過ぎたら焼き始めてください。室温に戻すのは「常温で保管する」こととは違い、あくまで温度差を縮めるための短時間の工程です。
焼く直前にキッチンペーパーで水分を拭き取る
室温に戻したら、焼く直前にキッチンペーパーで表面の水分を拭き取ります。これは重要度のわりに省かれやすい工程です。
表面に水分が残っていると、フライパンに置いた瞬間に水が蒸発するのに熱が使われ、肉の温度が上がりません。結果として焼き色がつくまでに時間がかかり、その間に中心温度だけが進んでいきます。逆に表面が乾いていれば短時間で香ばしい焼き色がつき、中心を狙った温度で止めやすくなります。
拭き取るのはドリップだけではありません。室温に戻す過程でにじみ出た水分も含めて、全面を軽く押さえるように取ります。こすらず、ペーパーを当てて吸わせるのがコツです。ここで力を入れて拭くと、せっかくの脂の表面を傷めてしまいます。
塩こしょうは焼く直前に振る
下味のタイミングは、解凍→室温に戻す→水分を拭き取る→塩こしょう、の順番で最後に来ます。焼く直前に振るのが基本です。
塩は浸透圧で肉の水分を引き出します。早い段階で振ってしまうと、表面に水分が浮き、せっかく拭き取った意味がなくなる。水分が少ないミスジでは、この引き出しが食感に響きやすいので、振ってからフライパンに置くまでの時間を短くします。
こしょうについては、強火で長く当てると焦げて苦味が出ることがあります。気になる場合は塩だけ先に振り、焼き上がって休ませる段階でこしょうを追加する手もあります。醤油ベースのソースを合わせるなら、下味の塩は控えめにしておくと全体の塩気がまとまります。
急速解凍で流れ出た肉汁は、後の工程で肉に戻ることはありません。「今日焼くか迷っている」段階なら冷凍のまま、「明日焼く」と決めた夜に冷蔵庫へ移す。この判断だけで仕上がりが変わります。なお生肉を扱った手・まな板・トングは、焼いた肉に触れる前に必ず洗うか別のものに持ち替えてください。
筋切りは1枚2分|包丁の入れ方と叩き方

筋切りが効く理由は「反り返り防止」と「繊維の分断」
筋切りには2つの役割があります。1つめは肉の反り返り防止です。加熱時に赤身と脂の部分では収縮率が異なるため肉が反り返ってしまいますが、加熱前に赤身と脂の境界にある筋を切ることで、その分収縮を抑えることができます。反り返った肉はフライパンとの接地面が減り、焼きムラの原因になります。
2つめが食感そのものへの効果です。肉には筋肉の組織を構成する筋繊維が長く伸びており、この筋繊維は長いうえに硬くて丈夫です。加熱しても繊維は残るので、長いままだと肉自体が硬く感じられたり、繊維が歯に挟まって食べにくく感じたりします。繊維を短く断ち切ることで食べやすく柔らかく感じる、というのが食肉メーカーの説明です。
つまり筋切りは「硬い組織を物理的に短くする」作業です。酵素や酸のように時間を置く必要がなく、包丁を入れたその場で効果が確定するのが利点。所要時間は1枚2分程度で済みます。
真ん中の1本を抜き取る手順
ミスジの中心にある太い筋は、切り込みを入れるだけでなく取り除くこともできます。手順のポイントは、いきなり深く包丁を入れないことです。
まず筋の側面に軽く切り込みを入れておきます。軽く切れ込みを入れておくことで、あとから包丁を深く入れていくときに目安になります。次に、切り込みに沿って包丁の先を寝かせ、筋の下に滑り込ませる。このとき、筋を引っ張りながら取り除くのがポイントです。指で筋の端をつまんで軽くテンションをかけると、包丁が入る面が見えやすくなります。
気をつけたいのは、赤身を削がないよう慎重に作業することです。焦って垂直に刃を入れると、筋と一緒に食べられる部分まで落としてしまいます。もったいないと感じるなら、完全に抜き取らず、筋に対して直角方向へ数カ所切り込みを入れるだけでも反り返りは抑えられます。
全体に1cm間隔で切り込みを入れる
中心の筋を処理したら、肉全体に筋切りを施すとさらに柔らかく仕上がります。目安は1cm間隔程度。包丁の先で、繊維を横切る向きに浅く切り込みを入れていきます。
向きが重要です。繊維と平行に入れても繊維は短くなりません。断面を見て、細い筋が走っている方向を確認し、それを横切るように刃を入れます。深さは肉の厚みの3分の1ほどで十分で、貫通させると焼いたときにそこから肉汁が抜けます。
裏面も同じように処理しますが、切り込みを入れすぎると形が崩れて焼きにくくなります。厚さ2〜3cmのカットなら、表裏で10カ所前後にとどめておくとステーキとしての見栄えを保てます。薄めのカットでは中心の筋だけ処理すれば十分なことも多いので、厚みに応じて手数を調整してください。
包丁の背・フォーク・ハンマーの使い分け
切り込みに加えて、包丁の背で肉を軽く叩き、筋肉の繊維を壊しておくと焼き上がりがさらに柔らかくなります。刃ではなく背を使うのは、切り離さずに組織だけ緩めたいからです。
道具がない場合は、フォークで肉を刺したりハンマーで叩いたりして繊維をほぐすことも有効です。フォークは刺す深さが揃いやすく、家庭では扱いやすい選択肢。ミートハンマーがあるなら、面の広い側で全体を均一に、力任せではなくリズムよく叩きます。
ただし叩きすぎは禁物です。厚みがつぶれて肉汁が流れ出し、ステーキというよりハンバーグに近い食感になってしまいます。ミスジはもともと柔らかい部位ですから、「形を保ったまま、表面が少し緩む程度」で止めるのが正解。漬け込みを併用する予定なら、叩く工程は軽めにして、酵素の働きに任せたほうがバランスが取れます。

特売の牛もも肉を買ってステーキにしたら、ゴムみたいに硬くて噛み切れなかった。焼肉用のもも肉が、口の中でいつまでも繊維になって残る。もも肉には、そういう苦い記憶を…
漬けるだけで変わる|酵素と酸の使い分け
なぜ漬けると柔らかくなるのか
漬け込みが効く仕組みは2段構えです。1つめは酵素によるタンパク質分解。調味液に含まれるプロテアーゼというタンパク質分解酵素が、アミノ酸を繋いだものを切り離していきます。硬さの元であるタンパク質そのものに作用するので、包丁では届かない内部にも効きます。
2つめが酸性環境による効果です。マリネとは肉や魚、野菜などをレモン汁やお酢、ワインなどの酸性の液体に漬け込む調理方法で、酸性側へpH変化させることで、肉の中にあるプロテアーゼを活性化させる効果があります。さらに肉のpH値を酸性に寄せることで、肉の水分が保たれるため柔らかくなります。
水分が保たれるという点は、水分量の少ないミスジにとって見逃せない利点です。酵素による直接的なタンパク質分解と、酸性環境による酵素活性化の両方により、肉を柔らかくする——これが漬け込みの全体像になります。
玉ねぎ・舞茸・果物の使い分け
酵素を含む食材の代表が、すりおろした玉ねぎ、舞茸、パイナップルです。このほか梨やキウイも同じ働きをします。
すりおろした玉ねぎは、味の方向性が和風にも洋風にも振れるので、ステーキソースの材料と兼用できるのが利点です。舞茸は細かく刻んで肉に貼り付けるように使うと接触面が増えます。パイナップル・梨・キウイといった果物は作用が分かりやすい反面、甘い香りが移るので、醤油ベースのソースと合わせる前提なら量は控えめにするとまとまります。
見分け方の目安として、果物系は表面が白っぽくもろくなりやすく、玉ねぎ・舞茸は比較的おだやかです。ミスジのように元から柔らかい部位なら、玉ねぎか舞茸から試すほうが失敗しません。すりおろした食材は焼く前に拭き取っておくと、フライパンで焦げるのを防げます。
塩麹・ヨーグルト・味噌は水分も守ってくれる
酵素含有食材には、塩麹・ヨーグルト・味噌といった発酵調味料も含まれます。こちらは分解の働きに加えて、下味が同時に決まるのが実用上のメリットです。
ヨーグルトは酸性なので、前述のpHの効果も同時に狙えます。塩麹は塩気が入るため、漬けた後の塩こしょうは控えめに。味噌は香りが強く出るので、醤油ベースのソースより、そのまま何もかけずに食べたいときに向きます。
どれを使う場合も、焼く前に表面の漬け床を拭い取ることを忘れないでください。糖分やタンパク質が表面に残ったまま強火に当てると、肉が焼ける前に漬け床が焦げます。拭い取ったうえで、前の見出しで説明したとおりキッチンペーパーで水分を押さえてから焼き始めます。
漬け込みは15〜30分まで
漬け込み時間の目安は15分〜30分です。この範囲を大きく超えると、分解が進みすぎて食感が崩れます。
やりがちな失敗②:朝から漬けて夜に焼く。原因は「長く漬けるほど柔らかくなる」という思い込みです。実際には、酵素は加熱するまで働き続けるので、時間をかけた分だけ表面がぼろぼろになり、噛んだときの弾力が失われます。柔らかいというより、繊維感のない締まりのない肉になってしまう。対策は、タイマーをかけて目安の時間で必ず引き上げること。先に漬けてしまってから予定が変わりそうなときは、いったん漬け床を洗い流して冷蔵庫に戻します。
なお、筋切りと漬け込みを両方フルでやる必要はありません。厚みのあるミスジなら筋切り中心、薄めのカットや「今日は確実に柔らかくしたい」という日は漬け込み中心、と使い分けるほうが結果が安定します。
| 漬け込み食材 | 主な働き | 味への影響 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| すりおろし玉ねぎ | 酵素によるタンパク質分解 | 甘みと香りが加わる | ソースに転用したいとき |
| 舞茸(刻む) | 酵素によるタンパク質分解 | きのこの香りが移る | 和風の付け合わせと合わせるとき |
| パイナップル・梨・キウイ | 酵素の作用が分かりやすい | 甘い香りが強く出る | 硬さが気になる個体に短時間で |
| 塩麹・味噌 | 分解+下味が同時に決まる | 塩気・香りがしっかり入る | ソースなしで食べたいとき |
| ヨーグルト・レモン汁・酢 | 酸性でプロテアーゼを活性化し水分を保つ | さっぱりした後味 | 脂のくどさを抑えたいとき |
ミスジステーキを柔らかくする方法の本丸は中心温度

焼き加減と中心温度の対応を数値で押さえる
ここからが本題です。下ごしらえも筋切りも、最後の火入れを外すと帳消しになります。厚さ2cm以上のステーキでは、焼き加減と内部温度は次のように対応します。レアが内部温度約45℃で中心部はほぼ生、ミディアムレアが約50℃で中心部はやや生、ミディアムが約55℃で中心部はピンク色、ウェルダンが約75℃で完全に火が通った状態です。
数字で見ると、レアとウェルダンの差は30℃ほどしかありません。フライパンの上で温度は分単位で動くので、「ちょっと長めに焼いた」が2段階の違いになることは珍しくない。焼き時間ではなく温度で管理する意識を持つと、厚みが変わっても再現できます。
家庭用の調理用温度計があるなら、肉の厚みの中央に先端が来るよう横から差し込んで測ります。持っていなくても、次に説明する余熱と焼き時間の目安で近い結果は出せます。
ミスジはミディアムレア(約55〜60℃)が本命
ミスジの推奨はミディアムレアで、目安となる内部温度は約55〜60℃とされています。高温で表面を焼き、中はレアに近い状態に保つことでジューシーさが保たれる、という考え方です。
理由は繰り返しになりますが水分量です。ミスジは脂身が少ないため焼き過ぎるとパサつきやすく硬くなる可能性があり、ミディアムレア〜ミディアムが最も美味しい部位とされています。ウェルダンの約75℃まで持っていくと、霜降りの口溶けより繊維の硬さが前に出てしまいます。
見分け方としては、切ったときに中心がピンク色で、押すと弾力がありつつ指が少し沈む状態。透明な肉汁がにじむ程度が目安で、赤い液体が流れ出るならもう少し火が必要です。ただし子どもや体調に不安のある家族が食べる場合は、中心までしっかり加熱した焼き加減を選んでください。挽肉や成形肉、表面に傷のある肉は中心部まで加熱するのが前提です。
火から下ろした後も2〜3度上がる
見落とされやすいのが余熱です。肉は火から下ろした後も余熱で内部温度が2〜3度上昇するため、目標の温度になる少し手前でお皿やアルミホイルに移すのが理想とされています。
つまりミディアムレアを狙うなら、目標温度ちょうどで下ろすのではなく、その少し手前で引き上げる。温度計を使っている人ほど「ぴったりで下ろす」をやりがちですが、その分だけ余熱で行き過ぎます。2〜3度という幅は、焼き加減の段階を1つずらすには十分な大きさです。
余熱の量は肉の厚みとフライパンの熱量で変わります。厚さ2〜3cmのミスジをよく熱したフライパンで焼いた場合は、上振れを見込んでおくほうが安全。逆に薄いカットでは余熱は小さいので、焼いている最中の時間管理が効いてきます。
温度計がないときの見極め方
温度計がない家庭のほうが多いはずです。その場合は、時間と手触りの2つで代用します。
時間の目安は後述しますが、厚みによって幅があります。手触りの判断は、焼いている途中でトングや指で押して、表面の反発を見る方法。室温に戻した生の状態で指で押した弾力を覚えておき、それより明らかに締まってきたら火が入りすぎのサインです。
もう一つの目安が表面の様子です。上面に肉汁がぽつぽつと浮いてきたら、内部の温度が上がって水分が押し出され始めた合図。このタイミングが裏返しの判断材料になります。判断に迷ったら早めに引き上げ、休ませた後に切って、足りなければ短時間だけ戻す。火を入れすぎた肉は元に戻せませんが、足りない肉は足せます。
| 焼き加減 | 中心温度の目安 | 断面の状態 | ミスジとの相性 |
|---|---|---|---|
| レア | 約45℃ | 中心部はほぼ生 | 脂が溶けきらず口溶けが出にくい |
| ミディアムレア | 約50℃ | 中心部はやや生 | ミスジの推奨帯(約55〜60℃)の入口 |
| ミディアム | 約55℃ | 中心部はピンク色 | 柔らかさと火入れの安心感の両立点 |
| ウェルダン | 約75℃ | 完全に火が通った状態 | 水分が抜けてパサつきやすい |
※厚さ2cm以上のステーキの目安。お肉の教科書調べ(公的・公式資料の数値をミスジ視点で整理)。
フライパンでの焼き方|裏返すのは1回だけ
フライパンは十分に熱してから肉を置く
焼き始めの鉄則は、フライパンを十分に熱してから肉をのせることです。電磁調理器(IH)を使う場合は約170℃が目安とされています。温度設定ができる機種なら数字で合わせられるので、再現性の面では有利です。
冷たいフライパンに肉を置いて加熱すると、表面温度が上がるまでの間に肉から水分が出て、焼くというより蒸す状態になります。香ばしい焼き色がつかないまま中心温度だけ上がっていくので、ミスジにとっては最悪の流れです。油を入れて薄く煙が立つ手前、水滴を落とすと即座に跳ねる状態を目安にしてください。
火加減は最初は強火、焼き色がついたら中火に調整するのが基本です。最初から最後まで強火だと表面が焦げ、弱火のままだと焼き色がつかない。強火は焼き色をつけるための時間、中火は中心温度を運ぶための時間、と役割を分けて考えると迷いません。
厚さ別の焼き時間の目安
焼き時間は厚みで変わります。参考になる目安が2つあり、1つは両面4分ずつ、中火で合計約8分というレシピ。もう1つは、表1分、裏40秒、側面も焼き色がつく程度という短時間のレシピです。
この差は厚みと狙う焼き加減の違いによるものです。厚さ2〜3cmのブロックに近いカットなら前者寄り、薄めにスライスされたステーキ用なら後者寄りで考えます。手順としては、フライパンを強火で熱して油を入れ、片面を焼いて焼き色がついたら裏返し、中火にして調整する、という流れが分かりやすいでしょう。
時間はあくまで出発点です。同じ「2cm」でも肉の温度、フライパンの材質、コンロの火力で結果は変わります。1枚目で時間と仕上がりの関係をメモしておくと、2枚目以降の精度が上がります。
何度もひっくり返さない理由
焼き方の基本原則として、裏返すのは絶対に1回だけ、とする考え方があります。理由は焼き色と時間管理の両方にあります。
接している面が離れるたびに表面温度はリセットされ、焼き色がつくまでの時間が伸びます。その分だけ加熱時間の合計が長くなり、中心温度が行き過ぎる。さらに、何度も触ると「今どのくらい火が入ったか」の感覚が持てなくなり、判断の軸を失います。
ありがちな流れとして、焼き色が気になって早めに覗く→まだ色がつかない→戻す→また覗く、を繰り返すうちに予定の倍の時間が経っている、というパターンがあります。対策はシンプルで、置いたら手を出さず、上面に肉汁が浮いてくるのを待つこと。裏返しのタイミングはフライパンではなく肉の表面が教えてくれます。
側面も忘れずに焼く
厚さ2〜3cmのミスジでは、側面の面積も無視できません。トングで肉を立て、側面も焼き色がつく程度に当てます。
側面には脂が集まっていることが多く、ここを焼くと脂が溶け出してフライパンに広がり、それがそのまま焼き油になります。表面だけ焼いて側面を放置すると、脂の白い部分が生っぽく残り、口の中で溶けずに残ることがあります。
コツは、トングで押さえつけるのではなく、フライパンの縁を使って肉を立てかけること。短時間で構いません。焼いている間に出た脂をスプーンで肉の上面にかけると、上からも熱が入って全体の温度が揃います。火を強くしすぎず、焦げないうちに引き上げてください。
焼いたあとの3〜5分と、買うときの選び方
アルミホイルでふんわり包んで休ませる
焼き上がったらすぐ切らず、アルミホイルでふんわりと包み、3〜5分間ほど休ませます。これで余熱で肉汁が閉じ込められて、さらにジューシーな仕上がりになります。
休ませる意味は2つあります。1つは温度の均等化。外側の温度は高いが、内部はそれほど温まっていないことが多く、休ませることで肉全体の温度が均一になります。もう1つが肉汁の再分配です。火を止めた後に肉を休ませることで、肉汁が全体に再分散し、ジューシーさが均一に行き渡ります。
実際、焼いてすぐに切ると肉汁が流れ出てしまいますが、休ませると肉汁は濃くなって粘りが出て、切ったときに流れ出にくくなります。まな板に赤い液体が広がるあの光景は、休ませ不足のサインだと考えてください。包むときは密閉せず、ふんわりと。ぴったり包むと蒸気で表面の焼き色がふやけます。
繊維を断つように切り分ける
休ませたら切り分けます。ここでも効くのが繊維の向きです。繊維を短く断ち切ることで食べやすく柔らかく感じる、という原則は、筋切りだけでなく切り分けにもそのまま当てはまります。
断面を見て、細い筋が走っている方向を確認し、それに対して直角に包丁を入れます。同じ肉でも、繊維に沿って切ると長い繊維がそのまま口に入り、噛み切りにくさとして表れる。せっかく焼き加減を合わせても、最後の一手で台無しになるのはもったいない話です。
ミスジは中心の筋を境に繊維の向きが変わることがあるので、左右で包丁の角度を変えるとより確実です。厚みは好みですが、薄すぎると休ませて閉じ込めた肉汁が逃げます。一口で食べやすい厚みを残しつつ、繊維は短く——この2つを両立させる角度を探してください。
コストコのミスジは厚さ2〜3cm・1枚約200g
買うときの話もしておきます。家庭でステーキ用のミスジを手に入れやすいのがコストコで、USAビーフのプライムミスジ ステーキ用(ITEM# 98316)は通常価格428円/100g、セール時380円/100gという価格帯です。実例では1,190gのパックが4,522円という購入報告があります。ワンランク下のチョイスグレードのミスジステーキは100gあたり318円前後で扱われることもありますが、いずれの価格も時期によって変動するため、店頭表示を確認してください。
サイズ感は、平均すると1枚200グラムほどで厚さは2〜3センチ。そのままステーキとして焼いて食べることができるサイズです。この記事で説明してきた「室温に戻す」「筋切り」「中心温度」の話は、まさにこの厚みを前提にしています。1パックは約1,190〜1,245gで、ステーキ用カットのほか、塊、焼肉用カットなど複数の形で並ぶことがあります。
味の評価としては、赤身がしっかりしていて、サシがきめ細かく、赤身なのに程よい食感で噛み切りやすいという特徴が挙げられます。脂がしつこくなく、濃厚な赤身特有の味わいという方向性なので、醤油ベースのソースとの相性がよい部位です。

「コストコの牛肉って結局どれを買えばいいの?」——大容量パックがずらりと並ぶ精肉売り場の前で、パックを持ち上げては戻す。あの数分間、迷っているのはあなただけでは…
買ってからの保存は4℃以下、消費期限は加工日を含めて4日
大容量パックを買った場合、全部をその日に焼くことは少ないはずです。保存表示は冷蔵4℃以下、消費期限は加工日を含めて4日とされています。この範囲を超えて冷蔵庫に置くのではなく、食べきれない分は早めに冷凍に回すのが基本です。
冷凍するときは1枚ずつ空気に触れないよう包み、平らにして凍らせます。厚みがある塊のまま凍らせると、解凍に時間がかかり、中心と外側で状態に差が出ます。ステーキ用に切ってから冷凍しておけば、前日の夜に冷蔵庫へ移すという段取りがそのまま使えます。
なお、一度解凍した肉を再び凍らせるのは品質面でも衛生面でも避けたいところ。買った日に「今週食べる分」と「先に回す分」を仕分けておくのが、結局いちばん柔らかい状態で食べ切るコツです。
・厚さ2〜3cmの塊に近いカット:室温戻し30分+筋切り+中心温度の管理を優先
・薄めのステーキ用カット:筋切りは中心の1本だけ。短時間で焼いて休ませる
・硬さが気になる個体:玉ねぎか舞茸に15〜30分漬けてから焼く
・温度計がない:上面に肉汁が浮いたら裏返し、早めに引き上げて休ませる
・家族に小さな子がいる:中心までしっかり加熱した焼き加減を選ぶ

まとめ|ミスジは硬くしない工夫で柔らかさが戻る
ミスジは、肩甲骨の内側から1頭あたり約3キログラムしか取れない希少部位で、腕の部位の中では霜降りが最も豊富。もともと柔らかい肉です。それが硬く感じられたなら、疑うべきは部位ではなく工程のほうでした。中心を走る筋を処理していないか、水分量の少ない肉を焼きすぎたか、あるいは焼き上がりを待たずに切ってしまったか。原因はだいたいこの3つのどれかに収まります。
今夜すぐ試すなら、順番は決まっています。まず冷蔵庫から出して約30分。その間に断面を見て、中心の白い帯に沿って包丁を入れる。ここまでで2分と少し。あとはフライパンをしっかり熱して、裏返しは1回だけ、目標より少し手前で引き上げて3〜5分休ませる。道具を買い足す必要はなく、今日のミスジ1枚で結果が確かめられます。
※価格・商品の取り扱いは時期により変動します。最新情報は各社の公式サイトや店頭表示でご確認ください。

コメント